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夜と霧 新版

[著]ヴィクトール・E・フランクル 

 ユダヤ人精神分析学者である著者ヴィクトール・E・フランクルが自らのナチス強制収容所体験をつづった著書。

 よくある収容所での悲惨な体験をつづったものではありません。他の体験談とは違い、収容所生活で人間の心理の変化を冷静に分析しています。

 どのようにして苦しみに耐えることができたのでしょうか。あらゆる感情が作用していることがわかりました。








| 無感情


 私たちは大きな苦しみを味わうと「無意識・無感情」の反応が起こります。著者はこう述べます。

 苦悩する者・病む者・死につつある者・死者、これら全ては、数週の収容所生活で当たり前の生活になってしまい、もはや心を動かすことのできないものとなってしまった。

 無感覚・内的な冷淡と無関心・・・収容所囚人の心理的反応の第2段階のこれらの特徴は、毎日の殴打に対しても無感覚にさせた。この無感動こそ、当とき囚人の心を包む最も必要な装甲であった。


私は山本保博(著)「救急医、世界の災害現場へ」の中である少年の話を思い出しました。

 山本氏が見た少年は、ゲリラに目の前で両親を殺されたにもかかわらず、強制的にゲリラと共同生活をしていました。

 少年はゲリラから解放されますが、自由になったにもかかわらず感情を全く表しません。山本氏はその少年が「感情」を母親の胎内に残してきたようだと表現しています。

 かつて私も「感情・感動」をなくすことで苦しみがどんどん減少していくのがはっきりと実感しました。

 人は「楽しいとき」から「悲しいとき」の落差が激しいときほど苦しみます。しかし「楽しいとき」がなくなれば落差は小さくなり苦しみが減少していくのが実感していきます。


 

 人は自由になったからといって、すぐには感情を元に戻せません。過去の記憶をずっと持ち続けています。著者も収容所から解放されたが、自由はしばらく戻らなかった、気分は収容所の頃と全く変わらないと述べています。

 

| 運命は決まっているのか


 収容所生活をしているものにとって常にある疑問を抱き続けます。「私はいつ解放されるのか」と。「解放されるかどうかは運命によって決まっている」と思ってしまう物語を著者は紹介します。物語の名は「テヘランの死神」。

「テヘランの死神」

  一人の金持ちのペルシャ人は召し使いと彼の家の庭を散歩していた。すると従者は死神に出会って脅かされたと悲嘆しはじめた。

 そして召し使いは主人に頼んだ。
 「足の速い馬を一頭いただけませんか?大急ぎでテヘランに逃げたいのです」

 主人は召し使いの言うとおりに馬を与え、召し使いは夕方までにテヘランに着くように急いで馬を走らせて行った。

 そして召し使いが出かけたあとで、今度は主人が死神に出会ったので、主人は尋ねた。 「どうしてお前は私の召し使いを脅かしたのだ?」

 死神は言った。
 「私は何もしていない。ただ、彼にここで逢ったのでびっくりしたのだ。なぜなら私は今晩テヘランで彼に逢うはずだったのだから・・・。」


 著者もこの物語と同様の体験を目の当たりにします。収容所の病室にいる患者が「あと○日に自由になる」という夢を見ます。その患者はその日が近づいても一向に自由が来ないとわかり、不安が増し、とうとうその日にチフスで死にました。

 「運命を変えることはできない。ただ定まっているのだ」と私は感じました。

 

| 読み終えて


 絶望的な人生を味わったときどのように対処すれば良いのか知ることができました。ただ、本書に書かれている対処方法は簡単ではありません。

 

| 目次

心理学者、強制収容所を体験する
 知られざる強制収容所
 上からの選抜と下からの選抜
 被収容者119104の報告―心理学的試み

第一段階 収容
 アウシュヴィッツ駅
 最初の選別
 消毒
 人に残されたもの―裸の存在
 最初の反応
 「鉄条網に走る」?

第二段階 収容所生活
 感動の消滅
 苦痛
 愚弄という伴奏
 被収容者の夢
 飢え
 性的なことがら
 非情ということ
 政治と宗教
 降霊術
 内面への逃避
 もはやなにも残されていなく ても
 壕のなかの瞑想
 灰色の朝のモノローグ
 収容所の芸術
 収容所のユーモア
 刑務所の囚人への羨望
 なにかを回避するという幸運
 発疹チフス収容所に 行く?
 孤独への渇望
 運命のたわむれ
 遺言の暗記
 脱走計画
 いらだち
 精神の自由
 運命―賜物
 暫定的存在を分析する
 教育者スピノザ
 生きる意味 を問う
 苦しむことはなにかをなしとげること
 なにかが待つ
 時機にかなった言葉
 医師、魂を教導する
 収容所監視者の心理 

第三段階 収容所から解放されて
 放免

 『夜と霧』と私――旧版訳者のことば(霜山徳爾)
 訳者あとがき

 

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